女性の悪玉コレステロール(LDLコレステロール)、健康診断で「高い」と言われたら?更年期や甲状腺との関係、治療の前に知っておきたいこと
こんにちは!しんがい内科循環器科 沼南クリニックの院長の安原健太郎です。 健康診断の結果を見て、「LDL(悪玉)コレステロール値が高いですね」と言われて、ドキッとした経験はありませんか?特に女性の場合、年齢とともにコレステロール値が変化しやすく、ご心配になる方も多いようです。
日本の動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは、LDL(悪玉)コレステロールが140mg/dL以上の場合に「高LDLコレステロール血症」とされ、健康診断などで指摘されることがあります。でも、「高い=すぐに薬を飲まなければ!」と考えるのは、少し早いかもしれません。
当院は内科、特に心臓や血管の病気を専門とする循環器内科として、薬だけに頼るのではなく、お一人おひとりの状態に合わせたきめ細やかな健康管理を大切にしています。今回は、女性のコレステロール値がなぜ変動しやすいのか、そして数値が高い場合にどのように考え、どのような選択肢があるのかについて、わかりやすく解説いたします。
1. なぜ?女性のコレステロールが上がりやすい理由
女性のコレステロール値は、ライフステージによって変動します。特に、以下の2つの要因が影響していることがあります。
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更年期と女性ホルモン(エストロゲン)の影響 女性ホルモンの一種であるエストロゲンには、LDL(悪玉)コレステロールを肝臓に戻すのを助け、HDL(善玉)コレステロールを増やすという、嬉しい働きがあります。しかし、閉経前後の更年期になると、このエストロゲンの分泌量が減少します。その影響で、LDLコレステロールが上昇し、HDLコレステロールが低下しやすくなるのです。これは多くの場合、自然な体の変化の一部です。
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甲状腺機能の低下(甲状腺機能低下症) のどぼとけの下あたりにある甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンは、体の新陳代謝を活発にする働きがあります。このホルモンの分泌が低下する「甲状腺機能低下症」になると、血液中のコレステロールの分解が滞り、数値が上昇することがあります。甲状腺機能低下症は女性に比較的多く見られる疾患です。「最近、妙に疲れやすい」「体がむくむ」「寒がりになった」といった症状と共にコレステロール値が高い場合は、甲状腺の機能を確認することも大切です。
2. 「悪玉」コレステロール=絶対悪、ではない?
LDLコレステロールは「悪玉」という名前で呼ばれることが多いですが、本来は細胞膜をつくったり、ホルモンの材料になったりする、体にとって必要不可欠な脂質です。問題になるのは、血液中で「増えすぎてしまう」こと、あるいは酸化などにより「質が悪くなってしまう」ことです。
健康診断でLDLコレステロール値が140mg/dL以上だと指摘されるのは、あくまで動脈硬化のリスクを評価するための一つの目安です。この数値だけを見て、「危険だ」「すぐに薬を飲まないと」と短絡的に判断するのではなく、もう少し広い視野で考える必要があります。
3. 「高い=すぐ薬」じゃない!本当に大切なのは「お体全体の状況」
しんがい内科循環器科が、すぐに薬物療法に頼らないアプローチを重視するのは、コレステロール値という**「点」だけでなく、その方の「全体的な動脈硬化のリスク」**を評価することが、将来の健康を守る上で最も重要だと考えているからです。
治療方針を決める際には、以下の点を総合的に考慮します。
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コレステロール以外の危険因子(リスク)はありませんか?
- 高血圧
- 糖尿病や血糖値が高め(耐糖能異常)
- 喫煙されているか
- ご家族(血縁者)に心筋梗塞や脳卒中になった方がいるか(家族歴)
- HDL(善玉)コレステロールが低い
- 中性脂肪が高い(※LDLコレステロールと中性脂肪が両方とも高い場合、動脈硬化を起こしやすい小型LDLが多い可能性も考えられます)
- 年齢
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すでに動脈硬化が起きていませんか? 当院では、必要に応じて頸動脈エコー(超音波)検査などを行い、血管の状態を直接確認することもあります。
もし、LDLコレステロール値が基準値より高くても、上記のような他の危険因子がほとんどなく、血管の状態も悪くなければ、すぐに薬物療法を開始せず、まずは生活習慣の改善にしっかりと取り組むことから始めるケースも少なくありません。
4. 薬の前にできること:毎日の生活習慣を見直しましょう
コレステロール管理において、お薬以上に基本となるのが、日々の生活習慣です。
- お食事: 揚げ物や炒め物などの油だけでなく、甘いお菓子やジュース、ご飯やパンなどの炭水化物の摂りすぎにも注意が必要です(これらは中性脂肪を上げる原因になります)。野菜、きのこ、海藻などに含まれる食物繊維を積極的に摂るように心がけましょう。
- 運動: まずは無理なく続けられるウォーキングなどの有酸素運動から始めてみませんか?HDL(善玉)コレステロールを増やしたり、血行を良くしたりする効果が期待できます。
- 禁煙: 喫煙は動脈硬化を進める非常に大きな危険因子です。禁煙は、コレステロール管理においても大変重要です。
- その他: 適正な体重を維持すること、十分な睡眠をとること、ストレスを上手に解消することも大切です。
まとめ
健康診断でコレステロール値の高さを指摘されると、誰でも不安になるものです。特に女性は、更年期や甲状腺の状態など、特有の要因で数値が変動することがあります。
大切なのは、一つの数値に過度に反応せず、ご自身の体全体のリスクを正しく理解することです。そして、薬はあくまで治療の選択肢の一つであり、基本となるのは毎日の生活習慣の見直しであることを忘れないでください。
私たち、しんがい内科循環器科は、福山市の皆さまの健康をサポートするため、お一人おひとりの状態やライフスタイルに寄り添った診療を心がけております。健康診断の結果について詳しく説明を聞きたい方、ご自身のコレステロール管理や今後の健康について相談したい方は、どうぞお気軽に当院までご相談ください。一緒に最適な健康管理の方法を見つけていきましょう。
参考文献
- 日本動脈硬化学会編. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版.